雑感@シンガポール

シンガポール在住で妻子がシンガポール人の30代です。日々の生活や趣味に対しての雑感を綴ります。

Nippon Steel vs Toyota Motor

電磁鋼板の特許権の侵害について日本製鉄が中国の鉄鋼メーカーの宝山鋼鉄と顧客のトヨタ自動車を提訴したという衝撃のニュースが報道されました。

 

日本製鉄は過去に同様の案件で韓国のPOSCOを提訴、和解しており、そのPOSCOから技術をパクったと噂のある宝山鋼鉄が提訴されるのは既定路線と言われればそうなのですが、まさかトヨタまで一緒になって提訴されるとは!Σ(・□・;)

 

多くのメーカー同様に日本製鉄にとってもトヨタは最大顧客のはずなので、このニュースを聞いたときはかなり驚きました。

 

両社とも当然プレスリリースを出していますが、トヨタのリリースを見ると、その言い回しから、以前から関係が悪化していたのかな?、と勝手に憶測を巡らせてしまいます。

特に最後に一文からは「トヨタはユーザーなのだから関係ないはず」という対外的にしている説明と、「ユーザー(=最大顧客)ってわかってやってるんだろうな!この後どうなるか覚えとけよ!!」という怒りのメッセージが込められていると勝手に解釈してしまいます笑。

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https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/36224453.html

 

この2社の関係は今年の8月に日本製鉄製品の納入価格の値上げに伴い”亀裂が入った”と報道されていましたが、今回の提訴で決定的に悪化してしまったようです。

交渉においてのパワーバランスでは、現在はトヨタが圧倒的に強いポジションにいますが、両社とも超大手で「サプライヤーは要望通り対応するのが当たり前」のトヨタと「鉄を供給してやっている」日本製鉄の仲は以前から良くなかったのかもしれません。

 

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https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC250D30V20C21A8000000/

しかしながら、この日経新聞の記事の中では「値上げを受け入れないのであれば製品の供給を制限する」や「ひも付き契約(長期契約)のルールを遵守し、過去にトヨタは実勢以上の値上げを認めることもあったのに」と日本製鉄側が一方的にトヨタを”脅し”ているようなニュアンスで書かれているが、これはあまり正確ではないような気がする。

まず値段を下げないのなら発注を減らすという”脅し”を常用してきたのは自動車メーカー側のはずである。また需要が急増したときは”供給責任”を盾に追加コストが発生しても予定通り納入することが当たり前の対応になっているし、自動車メーカー向けに生産能力を確保しているにも関わらず需要が急減したときは納入数量の保証など当然のように無い。

 

また私の覚えている限りでは何年か前に鉄鉱石、石炭などの原材料価格が急騰し、鉄鋼製品価格で20円/kg程度のコスト上昇となった時も、トヨタへの値上げは14円/kgしか認められず、6円/kgは日本製鉄側の持ち出しとなった記憶がある。(注:数字は正確でないかもしれません)

 

この6円/kgという数字がどういう意味を持つかというと、日本製鉄は自動車関連市場向けに概ね1000万トン/年で製品を出荷している(トヨタとの値決めは報道されて自動車業界全体に波及する)ので、単年度で6円/kg x 1000万トン = 600億円のマージンが減ることによる収益押し下げとなる。通常契約は長期契約なので、価格是正できない状態が複数年続けば、例えば5年で3000億円の収益消失となり、マージンがない状態で厳しい条件の仕事を続けないといけない事となる。

 

つまるところ、お互い様なのではないかと思います。トヨタもこれまで強い立場を利用して”交渉”してきた訳で、それを日本製鉄がやると”交渉”ではなく”脅し”になるのは、あまりフェアな表現ではないような気がします (;^ω^)

 

一方で、あくまで個人的な印象ですが、トヨタは自動車メーカーの中ではかなり紳士的な企業で、対話できる相手だと思うのですが、ここまで話がこじれてしまったのは、やはり単純に仲が悪かったのだろうか、、、(・・⁇

 

じゃあ、トヨタにケンカを売った日本製鉄はこれからどうするのか?というと、相対的に日本でのビジネスを減らして、海外で地産地消を進めていくのかなと推測します。そのため海外市場開拓するための武器となる知財を顧客を提訴してでも守るということなのかな、と思います。

 

また、あくまで推測ですが、日本製鉄は要求は厳しいけど金払いが悪い日本企業とこれ以上過去からの延長線上でビジネス継続するべきではない、と判断せざるを得ないところまで追い込まれてしまったのではないかと思います。

生産側で国内の高炉を5基休止して、生産能力の20%の1000万トン減らすリストラをしているので、販売側でも内容の悪い契約は整理していくとのことなのでしょう。

そもそも国内需要に対して生産能力を持ちすぎていて、値段を下げてでも売り捌かないといけなかった構造的な問題が不採算になってしまう大きな理由の一つでしたが、このマージンの確保にフォーカスする動きがもしかしたら今日の日本全体のデフレ状況から脱却のマイルストーンになるかもしれませんね (*^-^*)

 

一方でトヨタは日本の製造業の最後の砦で、自分たちの都合が悪くなると言うことを変えるようなドイツの自動車メーカーに負けないようにぜひ頑張って欲しい!!と勝手に思っています笑。

クリーンディーゼルはどこに行った笑!

 

ともあれ、この提訴がどこに落ち着くのか野次馬としては興味津々です笑 (*‘∀‘)